夜間は看護師さんが一人で巡回に来てくださっていたので、小児科医の姿を見て緊張した。
言われてしまう... そう思い、最後の言葉を受け入れる覚悟をした。
小児科医がジョイスを診察し、聴診器を耳から外して言われた。
「今、呼吸はお休みされています。心臓は弱まってきていますがまだ動かされています。」
体が冷たくなり、呼吸も一時間くらい前からしていなかったので、もう旅立ってしまったと思っていた。
「ごめんね、ジョイちゃん。まだ、ここにいたんだね。」
必死で生きよう、生きようとするジョイスを抱き寄せた。
「ありがとう、ジョイス。僕たちに1秒でも長く抱かせてくれようとしているんだね.. 」夫が声を震わせながら言った。
ジョイスが、小さな体で、呼吸をせずに心臓を動かし続けていたことに正直驚いた。
1秒でも長く生きよう、1秒でも長く私たちとともにいてあげよう、その姿に、私たちの心が震えた。ジョイスは、本当に最後まで戦士だった。
娘の死のふちで、ママも頑張らなくては!と思い、こぼれる涙を止めようと、何度も何度も手でぬぐった。
「最後の最後まで、ジョイスを抱いてあげよう。」夫と話した。
差し込む朝陽に、長女(まなみ)が目を覚ます。
「グッドモーニング、まなみ。」
まだ、眠そうに目をこすりながら、長女が私たち三人のいるベッドによじ登ってきた。長女は、ジョイスを見るなり、彼女の両手をとり、パチパチと手をあわせて遊んであげようとしていた。
長女が、ジョイスに顔を近づけて言う。
「グッドモーニング、ジョイス」
「.... 」
「ジョイス、おくちに、なんか 白いのついてる~」
「.... 」
「ジョイス、まだまだ ねてるね〜 」と目が閉じられたままで反応のないジョイスを見て、私に言った。
体が少しずつ硬くなってきているのだろう。先ほど、含ませてあげたミルクがジョイスの口から出てきていた。
天国の門がひらくのは、もぅ間近だ。
夫もこれが姉妹一緒に過ごす最後のときになると思ったのだろう、長女にジョイスを抱っこするように伝えた。
長女は、夫に腕を支えてもらい、
「ジョイス、おもーい」 と言いながら抱っこしていた。
「まなちゃん、上手ね。ジョイちゃん嬉しいと思うよ。」と長女を褒めてやる。
夫の真似をして、長女も夫に続いて「アイラブユー、ジョイス」と伝えていた。
長女が、ジョイスを抱き終えたあとに、夫が長女を自分の前に座らせて、ゆっくりと話しはじめる。
「まなみ、ダディーは、これから大事なお話をするよ」
「... 」長女が、無言でうなずいた。
「今日ね、まなみとダディーはお家に帰る。
マミーももう少ししたら、お家に帰ってくるよ。
でも、ジョイスはお家に帰ってこないんだ。」
「なんで〜?」
「ジョイスはね、天国に行くんだよ。イエス様のいるところに行くんだ。」
「分かる?」
「うん。」
「じゃぁ、ジョイスにさようならを言っておこうね。」
「オッケー 」と長女は返事をし、
「バーイ、ジョイス」とジョイスに言いながら、
ジョイスの顔の前で手を振り、ハグをして別れを告げた。
長女のジョイスへのさようならは、公園で一緒に遊んだ友達に言うような、とても軽い、3歳児らしい飾り気のない「バーイ」だった。
あまりにさらりとバーイを言う長女に対して、ちゃんと理解したのだろうかと思い、長女に続けて話した。
「また、会えるよ。」
「いつ?明日?」私の顔を見て、娘が尋ねてくる。
「明日ではないけれども、神様がまなみを呼ばれたら会えるのよ。その日を楽しみにしておこうね。」と伝えた。
「うん!」と長女は返事をして、またベッドのうえにゴロゴロと転がり遊び始めた。
3歳児に妹の死を理解をさせるのは難しいと思ったが、昔、友人の死に苦い経験を持つ夫が、長女にはさようならを言う機会を与えてあげたいと希望したからだった。
窓から見える空は、日が昇りますます明るくなってきた。ジョイスが産まれて、もうじき半日が経つ。
少しずつ硬くなりはじめているジョイスを抱きながら、... 天国の門からはすでに光が漏れはじめているように思えた。
ジョイスを抱く私の腕の上から、夫が腕を回して一緒にジョイスを抱いた。母や妹は、ジョイスの頬や手足を常になでてやっていた。天の門が開いても、天使がジョイスの手をとるその瞬間までは、私たちがしっかり抱いてやりたいと思った。
ジョイスは最期のその瞬間まで、私たちとともに過ごした。。
私たち夫婦の腕の中にいるジョイスの顔を見つめているときに、
私の頭の中には、ある御言葉が聞こえていた。
イエス様は言われた…
『見よ、わたしは世の終わりまで共にいる。』マタイ28:16~20
私たちは、あなたがこの世での旅路を終えるときまで共にいます。ジョイちゃん、私たちは愛している。