分娩室にかけつけた夫は、私が分娩台に乗っているのに驚いていた。 え?産むの?今から?
小さな娘が私を見て、マミー何しているの?ネンネするの? 足が痛いの?と聞いてくる。
娘がいつもと違う空気を察して、私のことを案じているのが分かった。
もし、私に何かあったときに ジョイスがママを苦しめたと思って欲しくないので、娘には私の出産を見て欲しくなった。そのため、夫に母か咲子さんが来て娘をみてくれるまでは立ち会わないで欲しいと伝え、分娩室から出ていってもらった。(こんな丁寧に話せていないけど… )
20分経過したぐらいで破水。破水をすると陣痛が弱くなり一瞬痛みから解放されたが、それはつかの間で陣痛はすぐに戻ってきた。
陣痛が襲ってくたび、来た〜!来た〜!と大声をあげて、助産師に向かって手を伸ばした。
その中で、夫は主治医に呼ばれ万が一の場合は覚悟するように言われていた。「陣痛がくるたびに、赤ちゃんの心拍が大きく落ちています。この状態が続くと、赤ちゃんにはとても良く無いです…」
帰ってきた主治医が私に言った。
「お母さん、頑張って!赤ちゃんの心拍が急に落ちるときがあるから、しっかり呼吸して、陣痛が来てないときは休んで」
仮死状態で産まれてきた長女のときと、同じ状況だと思った。
私がちゃんと呼吸しないと、赤ちゃんに酸素がいかないのだ。
助産師に合わせて、痛みに負けずにしっかり息を吸い込み、また吐き出し、休めるときに体を休めた。助産師の後ろに見えるジョイスの心拍モニターを見つめて、絶対に死なせない!必ず、ジョイスを生かして産む!心に一瞬のひるみも入れないのだと、自分に言い聞かせた。
咲子さんが到着して夫が分娩室に入ってきた。優しい言葉をかけてくれる夫に対して「しゃべらないで!」と言い放った。 夫の優しい言葉に甘えがでて、自分の心が弱ってしまうことを恐れた。
ジョイスを生み出すことは、私にしかできない。助産師が左側に立ち、夫が右側に立って手を握ってくれていたが、夫の顔をいっさい見ないようにした。少しでも夫の顔を見ると、心にすきができてしまうと思ったからだった。
陣痛がきているときは、助産師の呼吸に合わせてプロの助言だけを聞くようにし、痛みの合間に「主よともにいてください」と言葉にして祈った。夫も祈っていた。
実際に出産を体験するまでは、ドラマの出産シーンのように、分娩室ではいつもいきんでいるのだと思っていた。でも、まだ赤ちゃんの準備が整って、出てくる瞬間でないといきんではいけないのだ。早く息むと、赤ちゃんがしんどくなるなど知らなかった。いきんで赤ちゃんを押し出すのは、最後の最後なのだ。
痛みがさらに増してくると、急にたくさんの白衣をきた人が分娩室に入ってきてた。
「じゃぁ、お母さんいきむよ!」と主治医が言う。
いきみの呼吸がわからない「どうするの?吐くの吸うの?」
呼吸を教えてもらいながら、3〜4回いきんだら、温かなものがドバリと出ていくのが分かった。
すごい!私産めた!ジョイスに会える!
取り上げられられたジョイスの横顔が見え、口をパクパクさせて、お腹の中にいたとき同様におっぱいを吸う練習をしていた。あージョイスだ!ジョイスだ!
小児科医がすぐに奥で、ジョイスを診察しはじめた。産声が聞こえなかったから、生きてるのと?と尋ねたが、ちょっと待ってねと返答。
ジョイスが見えない、見えない。生きてるのかが分からない。今、口をパクパクさせてたよね?まだ、生きているの?
そのときに、「クシュ〜ン」と聞こえた。ジョイスのはじめて出した音は、くしゃみだった。
よかった!生きてる!産声ではなかったが、くしゃみを聞いて、ホッとしてみんな笑った。
神様、ありがとう。主よ、ともにいてくれてありがとう。涙があふれた。